山路を走りたい 静かな山路
川沿いに続く、のどかなワインディング
早朝 空の白む頃

野宿は渓流をさかのぼった処
木々の緑のにおい
鳥の声
寒いくらいの空気

山路走って海辺にでる
海辺は砂浜
夕日の美しい処 人のいない処
流木 焚き火
波の音

野宿記 飛騨山路

1985年10月7日〜11日

風来坊
風のごとく 来りて
風のごとく 去る

十月七日

曇時々晴 午雨
京都―木之本―関ヶ原―根尾―美濃―郡上八幡(鬼谷湖)
走行287Km
九時半京都発。R161を北上。R303の奥琵琶湖のあたりは気持ちがよい。雲も晴れて 空も湖面も青い。八草峠を越えるつもりで木之本をめざす。木之本は旧い街らしい。狭い道、 木造りのガラス戸、古い寺、なかなかよかった。しかしR303は八草峠全面通行止。やむなく R365で関ヶ原へ。この間、田畑の中の平凡な道。平野の道は面白くない。左手には伊吹山が 雲をかぶった姿をみせている。関ヶ原から本巣への県道はまったくわかりにくい。標識が 少ないのだ。やっとの思いでR157。これも最初ゴタゴタする。
根尾川に沿って北上。やっと求めていた山路となる。
緑の山、緑の川を見ながら快調に走る。
金坂峠は工事中で迂回、一車線の細い道。
視界のひらけた処で昼食。緑のまるい山と、青空と雲と、雲の影と、はるか下の渓流。
渓流にテントをはって釣りでもしたい。
根尾からR148で尾並坂峠を越える。とても国道とはいえぬ狭くてひどい道だ。林道のおもかげがはっきりわかる。 それでも峠を下ると、けっこう集落がある。林業のそれなのだろう。丸太、薄板。独特の木のにおい。よいにおいだ。 まだ若いマキを焼くにおい。
関には出ず、洞戸を通って美濃へ。川沿いのゆるやかなワインディング。天気はやや曇りがちになる。
R158にでる処で少々迷う。方向感覚が変になった。
やはりR158はよい。晴れていればもっとよいのだが。
長良川はゆったり流れている。郡上八幡の手前あたりでポツポツとくる。そのまま町内へ。さしみを買ってでてくるとかなりの雨。 やむなくカッパ。以前走った堀越峠を越える。鬼谷湖まではかなり走る。十数キロはあるだろう。 鬼谷湖もわかりにくい。やっと着くと水が少なく、池ともいえないようなもの。キャンプ場らしき ものもない。干上がった湖底におりてテントを張る。
うかつにも、止めたバイクが倒れてしまった。斜面でひとりではおこせない。幸い、林道を人が 通りかかったので、たすけてもらう。クラッチレバーが折れていた。明日八幡で買えるとよいが。
写真、夕飯、コーヒー、酒。ルーチンワークがはじまる。秋の日はすぐ暮れてしまった。一時、星も 出たのだが、すぐ曇り時々雨がパラついている。
雨音が止めば小川のせせらぎが聞こえる。
明日の朝はカラっと晴れてほしいものだ。

R303、奥琵琶湖にて

R157、金坂峠の迂回路。細いワインディングを走る

郡上八幡より堀越峠を越えた処にある鬼谷湖
鬼谷湖の湖畔、というより湖底にテントを張る。夕暮、食事前


十月八日

曇時々晴 時々雨
鬼谷湖―八幡―高山―平湯
走行154Km
八時頃起床。ゆうべは一晩中時雨がパラつく。酒に酔って寝ぼけたりした。カレーの朝食。 それほど腹はへっていない。雲が流れて、晴れたり、時雨たり。静かな山の朝。折れたクラッチレバー、 針金であれこれやるがダメ。なんとかなおして出発は十時過。郡上八幡のバイク屋で、幸ひにもレバーを 売っている。ガソリンも入れて、ジュース飲んで、平常心にもどる。朝はいく分、動揺していた。
R156を北上。長良川はゆったり流れている。白鳥町を過ぎ、高鷲(タカス)村に入ると、 峠のワインディング。気持ちよくとばす。晴れると気持ちも晴れる。曇ると寂しい。晩秋、初冬の風情。 荘川の里はよくなかった。またひたすら走る。
軽岡峠、松ノ木峠、小鳥峠。ススキの穂、黄葉、秋を味わう。高山は女の子が多い。地図を片手に 歩きまわっている。旧い町街、歩いてまわる。版画屋があった。山頭火の句がある。妙にうれしくなる。 店のおばさんとしばらく話をする。明日は祭りだそうな。店の中にいるあいだ、外は時雨がはげしく降る。 でる頃には晴れて日がさす。食料を買って、R158を平湯へ。時雨のあとで、路面が濡れている。
平湯峠に近づくにつれて、はだ寒くなってくる。
濡れたひざに風があたって冷たい。
三時、平湯着。田中を待って、先へはゆかずにここで、野宿。平湯温泉まで行ってみるが、共同浴場はなさそうだ。
もどって、テントはって、飯たいて、やはりビールが飲みたい。下ってビール買っていると、田中が来る。
二人でもどって夕食。恒例、豚汁。昼食ぬきなので、食がすすんだ。まあ、いい一日だった。酒をのみ、寝るだけ。
夜中、外に出ると満天の星空。
明朝は冷えるだろう。
三時前、例によって目が覚める。外は三日月夜。
田中も起きて、寒い寒いという。私はおかげさまで、快適快適。ねむくないので山頭火を読む。
ランプの灯りの中の山頭火の文章。文章というより詩という感じだ。実にいい。部屋で読むより雰囲気に浸り込める。 寂しくて、ひょうひょうとして、しみじみと。
この静けさ、精神の平安。
旅でなければ、野宿でなければ味わえない。
私は、これを求めて、旅を、野宿をしているのです。
今日は、せっかく、温泉場に来たのに、湯に入れず残念。できたら、明日、朝湯にでもつかりたい。山頭火のように。
水の音がきこえている。近くに平湯大滝があるらしい。
久々に、句作。

満天の星空の下、尿している。 (再録)

高山の旧い街並で、山頭火がある。

三日月の光で、それでもまだたくさんの星で。

曇り寂しい風の中を走る。

時雨パラパラ、でも苦にならない。

薄の穂がたくさん、もう秋です。

満天の星空、明日の朝が楽しみな。

ランプの灯り、山頭火の活字。

朝の鬼谷湖。晴れ間ものぞく

荘川の里はいまいち


R158、松ノ木峠を越えて高山へと下るあたり。ススキの穂が秋を感じさせる

飛騨高山。宮川にかかる橋より。

保存地区内にある版画屋。山頭火の句もある。



R158、奥飛騨温泉郷の入口、平湯峠にて。トンネルをぬけたところ、大分寒い。 乗鞍には雪が降ったようだ。

峠から眼下、山と山のはざまにみえる平湯温泉。

平湯キャンプ場にて、予期していた田中と会う。
野宿ツーリングで愛用したハリケーンランプ


十月九日


平湯―新穂高―国府―宮川村―砺波―金石
走行220Km
七時半起床。外は青空、雲ひとつない。
木もれ陽が美しい。シュラフからでると、空気は非常に冷たい。ゆうべの残りで雑炊をつくる。コーヒーのんで 出発準備。紅葉と道路をバックに写真とったりして、出発は十時過ぎ。田中とはすぐ別れる。ホーンであいさつ。
朝のワインディングをかけおりる。栃尾で右折、新穂高温泉へ。緑の山のあいだから、時々穂高連峰が白く雪を かぶってみえる。新穂高は、まさに穂高連峰のふところ、見上げると雪山が間近。温泉に入るか迷ったが、福井まで 行くことにしてパス。栃尾から、高原川に沿って走る。この道はよい。
両側に緑の山がせまり、川は激しく流れる。ナナハンらしく70〜90Km/hで走る。実に気持がよい。
空は青、山は緑、川は白。
見座で左折、橋を渡って、山を越えて国府へ。
まったくの田舎道だった。小さな街を過ぎると、ススキの穂、紅葉、緑の山。のどかで、静かで、寂しくて、気持がよい。
旅行者はまったく通らない。時々、地元の車とすれ違うだけ。木漏れ日のワインディング、小川が流れている。
大坂峠を越える。
一面のススキ、緑の小山、遠くかすむ峰々、はるか下には集落。左手に見えるのは御岳か、さらに乗鞍もそびえている。 エンジンを止めると、何の音もしない。時々、風にススキがそよぐだけ。
つづら折れで、峠を下る。タイトなコーナーの連続。しかし、道路工事をしている。やがてはこの峠道も、広くて立派な道に なるのだろう。何々スカイラインのような!
ちょっと寂しい気がする。昔から、人々が越えてきた峠が、なくなってしまうような。地図を眺め、山路を探ねてゆくと、 妙に峠が好きになった。なんと、たくさんの峠があることか。国道の大きな峠から、県道・町道の本当の峠越え。 ダートであってもよい。MTXで峠越えの旅に出たい。
古川でR41、ちょっと行って左折。白川村へ、のつもりが、R360は崖崩れで通行止とのこと。予定がくずれてしまった。 もどるのは、面白くないし、福井の海岸はあきらめて、金沢の海岸で野宿することにする。
落合で、R360を右折、宮川村へ。神通川の源流、V字形の深い渓谷、その中腹を、国道と線路が、へばりつくように 走っている。まさに山路。通行止で、ちょっと憂鬱になっているところ、実に寂しい道。時々集落が現れる、学校などもある。 それは、対岸にみえたり、また国道がその中を通ったり。
山あいの生活というものについて、考えさせられた。
この道も途中通行止。バイク一台、やっと通してもらえた。わびしい山路ばかり走っていると、前は単調だったR41も 心強く思えてくるから不思議だ。細入村で右手に大きなダム。ツーリングライダーもみかける。大沢野でR41をそれて八尾へ。 神通川は大きくゆったり流れている。
山ひとつこえて八尾、風の盆で有名な処だ。標識がなく道に迷う。道をきいたりしが、結局、庄川への山越えはできず、 北上してR359を西へ。遠回りになったが、R359も山路でなかなかよい。金沢までのことを考えたら、かえってこの方が よかったかもしれぬ。砺波でさしみを買う。R304に合流。工事中で旧道を走る。また、山路だ。旧道はよい。集落もよい。 なつかしい。
金石へは、二年前に来たことがある。思えばあれが、最初の野宿旅だった。
勝手知ったる金石。海岸に出て、砂の丘にテントをはる。夕日は期待できそうだ。ビール飲んで、めしの炊けるのを待っているうち、 あっという間に日が沈みかける。やっと、写真三枚をとる。うまく、とれているとよいが。
ここは波音が大きい。波も荒い。沖には漁火。星空は昨日ほどではない。やはり、山の星空は美しい。

(田舎道)

・緑の山ふところで、ゆったりくねった白い道。

・ここにも人が住んでいる。柿の木があり。

・峠の頂上は、静かで、ススキと青い空。

また、夜中に目が覚めた。変な夢をみた。灯りがほしい。人の声がききたい。ランプをつけ、カセットをきく。
灯油がほとんどない。炎を小さくして倹約。
山頭火を読む。
山頭火の日記をずっと読んできたが、この本「みちのくまで」はいい。行乞記以後、久々の紀行文もあるし、 何よりも表現が、文章が、詩的で、落ち着いて、しみじみ感じさせられる。「一握の米」「ぐうたら日記」あたりの、 其中日記のマンネリズム、なげやりな文章から一皮むけたのか。山頭火も久々の旅が、句作上プラスになったと 書いている。季節・時節は秋・十月。昨日、今日走った山路、山頭火の文章に、いちいちうなづく処が多い。
山路のよさ、田舎道のよさ。
秋の草花、紅葉、空、雲、・・・・・。
それらは、歩いて味わうのが本当なのだろうけれど。
歩いて、峠を越えつつ、山路を分け入る。そんな旅。
いよいよ、灯油がなくなった。明日ももう一泊するのだから、どこかで手に入れなければ。
明日は休日。人と車でうっとうしいに違いない。ネズミ捕りにも注意しないと。

(今日の夕食)
さしみ マグロ・カジキ・赤貝・とり貝・うに・イカ

快晴。木漏れ日のキャンプ場にて、食後のコーヒー。


朝のR158。山はもう紅葉している。

新穂高温泉のケーブル乗り場にて

穂高連峰をバックに

上宝村からR41、国府町へぬける山路。のどかな風景

大坂峠より南西方を望む。御岳もみえる。

R360、宮川村のあたり。するどく落ちた谷、その中腹を走る細い道。奥深い山路を感じる。 しかし、ここにも集落があり、人々が生活している。



金沢の海辺、金石の砂浜

天気がよく夕日が美しかった。波も荒い。

十月十日


金石―金沢―福光―五箇山―白川―白鳥―大野―福井―越前海岸
走行277Km
七時前起床。ねむいが、今日は300キロ近く走るので早起。昨日の残りのほんのわずかな飯にカレーかけて朝食。 うまい。八時半出発。
金沢市内は、うっとうしいが、兼六園の岡一つ越えると、すぐ田園風景。市街から、十分ぐらい、浅野川を渡る。
医王山の麓をぐるりとまわって福光へ。
まったくの山路、田舎道。山中のワインディング。時折、集落にでる。稲束を干したり、道にならべたり、まさに秋たけなわ。 金沢はやはりなつかしい街だ。歴史あり、山あり、海あり。
R304にでるとツーリングバイクが多くなる。そのほとんどが、軽装。ワンパターンはやめてほしいものだ。みんな、同じ かっこうをしている。
城端でちょっと道に迷う。長い、五箇山トンネルをぬけると平村。眼下に庄川の大渓谷が広がる。谷が深く大きく、さすがに 飛騨の山奥という感じだ。
谷底まで下ってR156。
左右にそびえる山、蛇行しながら進む川、そして道。
菅沼の合掌集落というのをみる。
川のそばに、十軒足らずの家々が集まっている。その中を観光客が歩く。人は住んでいるのに。毎日、庭先を歩かれる彼等の 気持ちはどんなだろう。民宿など、やっている家もあるが。
あとは、ひたすらR156を南下。五箇山集落や、白川郷などは、観光化され俗化している。みやげ物屋の前はバスから おりた人だかり。これが本当だろう。土地の人々は、こうやって暮らしているのさ。
南下するにつれて、バイクの多いこと、例の皮ツナギライダーたち。事故も、二度ほどみかけた。バイクと車の。
昨日まで、事故など思いもよらなかったのに。これが、休日の悲しい現実だ。俺もやがて、そうならねばならぬのだ。
平瀬温泉で、共同浴場の看板、やっと温泉に入れた。割と新しくて、清潔な湯だった。泉質、含食塩いおう泉。久しぶりに さっぱりとする。
三方崩山の登山口がある。山をおりて浴びる一風呂はどんなによいだろう。
南下につれて、ひらけて、漫然としてきたR156も、荘川からは山路となる。二日前通った処だが、やはり山路はよい。
天気もよくて。
ススキの穂もかがやいていた。
白鳥町で右折、九頭竜湖へ向かう。油坂峠のワインディング、マスツーリングのバイクが多い。実に走りにくい。 もう、見るのもいやになる。ほんの数台、野宿屋らしきも、みかけたが。やはり、オフロードが多い。
湖畔でバイクを止めると、偶然、隣もXV。名古屋からのタンデムだ。むこうから、いろいろ話しかけてくる。女の子の 表情が面白かった。付き合わされてるといった感じだ。やはり、バイクに女なんか乗せるものじゃないね。疲れるにきまってる。 俺だって、人の後ろなんか嫌だもの。
九頭竜湖を過ぎるとバイクは少なくなる。やっと、ほっとする。勝手といえば勝手だが、少ないからこそ、バイクなんである。 ツーリングなんである。
九頭竜川沿いのワインディングも、なかなかよい。深い谷の中をぬけてゆく。
大野は、山あいからひらけた処にある。まわりは山ばかり。こんな街があったとは。山ばかりの中の小さな都市だ。福井まで、 また山の中。福井で食料調達。
R416がなかなかわからない。とうとう、国道の看板は見なかった。
越前海岸へ。二年前の場所をさがす。
夕日は、残念ながら、雲でダメのようだ。夕食前、ビールのほろ酔いで、ぶらぶら歩く。潮の香り。祭りなのだろう、 太鼓の音が聞こえる。
夕食のおかずは、あゆと、バイ貝。腹いっぱい食べた。暮れきると、沖には漁火。昨日よりたくさん、そして美しい。天気予報 によると明日は曇りのち雨らしい。

・磯景色で、点景としてテントとバイク。

・ここにも人が住んでいる。柿の木があり。

・風の峠道を走る。


五箇山近く、菅沼の合掌集落にて。
押し寄せる観光客、しかし、こうやって暮らしている人もいる。

平瀬(大白川)温泉にて。共同浴場に入る。やっと温泉にはいった。

九頭竜湖畔にて。名古屋からのタンデムのXVと会う。

越前海岸、伊切のキャンプ場。天気は悪くなり夕日はみえない。磯景色、潮の香り、祭りばやし。

十月十一日

曇時々雨 後 晴
越前海岸(伊切)―武生―今庄―木之本―京都
走行220Km
七時前起床。昨夜来、小雨パラパラ、時折突風、の天候。強風では、テントが押しつぶされるほど。何となく憂鬱になる。 ゆっくり朝寝して、のんびり帰るつもりが、皮肉なものだ。風のテントの中で、雑炊をつくり、コーヒーをわかす。 強風が幸いして、熱がこもらない。
出発する頃には雨は止み、雨の中でテントをたたまずにすむ。二年振りの越前海岸。曇り空に、時雨がパラつく。 北陸には、こんな天気が合うのかもしれない。ひどい雨でもなく、しみじみとして、それほど悪くはない。
漁師町、漁港。それらには不思議な魅力がある。
もうしばらく海辺を走ろうかどうか迷ったが、結局越前町からR417で織田、武生へと向かう。小さな県道でネズミ捕りを やっていた。こんな処でやるのである。ツーリング中、はじめて。
武生で、再度紫式部の歌碑をさがすが、やはりみつからない。R365で今庄、木之本へ。椿坂峠を越えると木之本まで 長くて真っ直ぐな下り。余呉湖へ寄り道。なんということはない湖だが、しばらくボーッとする。静かで気持がよい。 地図をみるとまわりを山で囲まれている。南には有名な賎ヶ岳がある。
R303・R8あたりで、かなりの雨。R161に入ると降ったり止んだり。それも京都に近づくと上がり、日もさす。 途中越えしてR367.
二時、無事下宿着。



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